マルクの眼

千字一夜

美鈴相談室

こんにちは、"ありがとうの杜 美鈴相談室"です。

 

──あ、もしもし、あの、私、相談があって聞きたいんですけど…家のこととか、家族のこととか、私それで、あの、

 

ええ、はい、大丈夫ですよ。ちゃーんと解決できるように、美鈴が導きますよ。まずは落ち着いて、カーム・ダウン。はい深呼吸。吸って、吐いて、吸って、吐いて。ハァーーイ!

はい、今ね、私の心を貴方に寄せました。大丈夫そうね。じゃ、無事"心頼"が出来たところで。御家族のお話ね?まず、貴方のお名前から聞かせてちょうだいな。

 

──はい、ワクチンです。

 

ワクチン?

 

──はい。ワクチンです。

 

ええと…お悩みがワクチンについて、ということ?

 

──あの、だから、ワクチン、なんです。

 

分かりました。じゃ、ワクチンの話は後でするとして、先にお名前だけ教えてちょうだいな。貴方をお名前で呼びたいの。

 

──だから、あの、名前がワクチンなんです。

 

名前がワクチン。

 

──はい、ワクチンと申します。

 

ワクチン、さん。ええと、それは上、下?

 

──というと?

 

上のお名前がワクチンなの?それとも下のお名前?

 

──…ごめんなさい。名前に上とか下とか考えたことがなくて…。私なんか、たぶん下の方だと思います。

 

そうじゃない!あ…ごめんなさいね。いえ、そうじゃなくって。ワクチンは御名字?それともお名前?

 

──ごめんなさい…よく分かりません。

 

よく分からない!?ど、どうしてなの?

 

──えっと、うちは昔から父が厳しくて、何をするにも、あの、ぜんぶ父に聞いてからでないといけなかったので…たぶんそれで、上の名前とか下の名前とか無い、んだと、思います。多分…。

 

嘘!?ええと、学校ではどうしてたの?

 

──えっと、あ、私、長いことセンターのボックスに入っていたので…ちょっと…

 

……ま、まあ、いいです。ワクチンさんは女性よね?年齢を教えてちょうだいな。

 

──34です。

 

はいはい、34才ね。御家庭のお悩みということで、家族構成もいいかしら?

 

──父と、弟が二人います。

 

それぞれ御年齢は?

 

──父は分かりません。弟は72、65です。

 

えーと、弟さんのほうが年齢がだいぶ上ですけれど…

 

──それも父が…私は個体値があまり良くなかったみたいで、育てるのが後回しになったんです。

 

ポケモン!?貴方たち家族、ポケモンなの!?レベルの話してたの!?さっき言ってたセンターのボックスって、ポケモンセンターのパソコンで預けるボックスのこと!?

 

──ポ、ポケ…??知らない言葉です…。

 

………。一応伺いますけど、冷やかしではないのよね?

 

──え、え、私!本気で悩んでいるから相談したかっただけなんです!なんでも相談に乗ってくれるって、電柱の紙に書いてあったから!

 

ああ、ごめんなさい。気を悪くしないでちょうだいな。念のため、あくまで念のためなの。もう美鈴は貴方を信じます。ごめんなさいね。

じゃ、質問の続きね。お住まいの場所を教えてちょうだいな。

 

──カントー地方です。

 

本当に信じていいのよね?

 

──はい?

 

もう、いいです。分かりました。

 

──えっと、悩みの話をしていいですか?

 

ええ、はい。そうそう。一応ね、先に説明しないといけない事があるの。聞いてね。

お悩みの内容によって、美鈴の解決方法が違います。すぐに解決出来そうなお悩みなら、この電話口で遠隔の心波を送ります。お時間がかかりそうなら、心石を送って心石付き合いをしないといけません。それぞれね、すこーしお金がかかってしまうかもしれないので、そんなことがあるかもね〜という可能性が少しだけあるという事だけね、万が一にもね、頭の片隅に置いておいてちょうだいな。いいかしら。

 

──よく分かりました。よろしくお願いします。

 

そう?ありがとうね。じゃ、お悩みを聞いていこうかしら。

 

──は、はい。実は、父がジムで水泳をやっているんです。それで、少し泳ぐとすぐにゴーグルが曇ってしまうらしくって…。大阪人はたこ焼きを作る時に油を塗るアレでクルッと中を拭って曇り止めにすると聞いたんですが、本当ですか?

 

ガチャ プープープー

 

──………。