マルクの眼

千字一夜

雑考

●鈍る

頭が鈍くなっている。加齢と思考停止のせいだろう。難しいことを考えないで、淡々と生きているからだ。会話もそう。予測可能で予定調和な会話ばかりしているので自分のテンポがなくなってしまった。貧すれば鈍する。貧しい暮らしをしている。

●休む

つくづく自分は無趣味だと思った。興味のあるものは多いのに無趣味。興味のあること=仕事、仕事から離れたい時に楽しむものがない、思考の逃げ場がない。そういえば歌舞伎やオペラを観に行くことがなくなった。ライブにも随分行ってない。交友関係も閉じていく。仕事のために体を休めるという思考。仕事がそれほど嫌ではない。そうなってしまうからこそ、仕事と好きなものは切り離すべきなのかもしれない。

●ピラミッド

金字塔を建てたい。功名という訳ではないけど、何か一つ社会や誰かの役に立って死にたい。それが成人してから私が抱いてきた漠然とした目標。学術的な分野であれば研究成果が後の世に残る。子孫を残す代わりに有象無象を書き留めて記録を残す。生殖以外で次の世代へ自分を残す一つの方法。創作活動を行う友人も同じようなことを言っていた。これまで生かしていただいたお礼も兼ねて、そんな事を考えている。

●ライフステージ

広瀬香美が次のステップへ進みたがる傍ら、私は立ち止まっている。時間は早送りできないから仕方がない。憐れまれても困るけど、私も生き急ぐ人を憐れんでいるのでお互い様だ。与えられた薪の数は限られている。自分と同じペースで同じ方向へ進まないことに思うところがあるのは分かる。でも、それだけだ。

●気難し屋

人生の指針の一つだった「善く生きる」ことを辞めた。諦めたというか、無駄だと感じた。芯のない他人に善く生きるよう強いられるのは御免だと思ったからだ。守りたい生き方がないだけ身軽で強い、哲学のない人間。だったら私もそうなって、気難しくて気性が荒い自分のままで生きたい。

●楽しみ

万葉歌人大伴旅人はこう詠みました。

生ける者 遂にも死ぬるものにあれば

この世なる間は楽しくをあらな

この世にし楽しくあらば来ぬ世には

虫に鳥にも我は成りなむ

どう思いますか?「楽しく」の解釈。連作"酒を讃むる歌"の中の二首なので、単純に考えれば「酒を飲んで楽しく暮らしたい」。私だったら「自殺するほど苦しくはないけど、なんか楽になりたいね」そんな気分。解釈の仕方は色々あるし、解釈をする自由は誰にでもあるけど、この歌は作った旅人のものだ。旅人の意図でしか成り立たない。そこが発信者と受信者との間にある絶対に埋めることのできない隔たりなのだと思う。少しでも埋めるためには旅人を知るしかない。それがジャコメッティ展には足りなかった。